久々にレビューではない、検証系の記事を書くような気がします
近々GPD WIN Max 3が発売されます。Ryzen AI Max+ 388モデルと395モデルがありますね
388バージョンは(今の時代としては)そのコスパの良さと、DCバレルジャックのACアダプタではなく、通常のUSB PD Type-C充電器でも起動できることが利点とされています
しかしGPD WIN 5発売当時から海外のギーク達の検証により、Ryzen AI Max+ 395であっても一部の充電器やモバイルバッテリーではUSB PD Type-C単体でも電源オフ状態からの起動が可能であることが確認されています
今回の記事ではこのあたりの話を、自分の手元の機材で実際に検証しながらまとめて書いてみたいと思います。使用する機材はGPD WIN 5です
※その他の機器について、GPD WIN Max 3では同様に起動できることが海外コミュニティで報告されていますが自分では試していません。ONEXPLAYER製品についても同様の挙動だと聞いたことがありますがこれは未確認です。GMKtecなどのminiPCについては聞いたことがないので分かりません。このように全てのRyzen AI Max+ 395 PCに該当するかどうかは不明ですのでご承知おき下さい
基礎知識
まず最初にこの記事内で使用する用語の説明や、充電・給電における基礎知識をまとめておきます。知識のある人は読み飛ばしてしまって良いと思います
なおこの記事ではデバイス側(今回の場合GPD WIN 5)にバッテリーを装着しませんので、以後は「充電・給電」ではなく「給電」とだけ表記させていただきますが、本体バッテリーへ充電する場合でも話としては基本的に同じです
USB PDについて
ここが結構大きな誤解のもとになっている気がします
『USB PD』の本来の意味は、USB-IFが策定した標準のプロトコル(通信規格)のことです。しかしUSBポートを使用して給電するプロトコルは他にもあります。身近にありそうなものとしては
| USB PD 3.0/3.1/3.2 | デバイスと充電器がネゴシエーションを行い固定電圧を決定(ハンドシェイク)します。3.0の電力上限は100W(5V/20A)で、3.1及び3.2の上限は240W(48V/5A)です。電流上限は常に5Aであることがこの記事のポイントにもなります |
| ※PPS | USB PDの拡張機能で電圧や電流を細かく動的に変動させることで発熱を抑えつつ効率よく充電する仕組み |
| QC | Qualcomの急速充電規格。昔はUSB-IFの規約に違反するほど電圧を上げ急速充電を謳っていたが、近年(4.0以降)ではUSB PDとの互換性を持たせた適切な仕様になっている |
| DCP | 一昔前に多かった5V最大1.5Aの充電専用規格。D(データ)ピンをショートさせることで充電専用ポートだと認識させ充電する |
| Apple Divider | 同じく5Vのレガシー規格だが昔のiPadなどのApple製品がより急速に充電するため開発した独自規格。例えばiPadであれば最大2.4Aの電流が流せる |
| 固定電圧(PDO) | 予め設定されている固定電圧で電力を供給する |
説明のためにType-CではなくType-Aのものや古い規格なども挙げてみましたが、とにかくUSBポートで給電すると言っても実際にはいくつものプロトコルが存在しているわけです
しかし現在においては、USB(特にType-C)で給電できるものや急速充電などは一緒くたに『USB PD』と呼ばれてしまっているという現状があります。これが誤解のもとになっているような気がします。詳しくは先の章で書きます
電力について
電力(W/ワット)は、
電圧(V/ボルト) × 電流(A/アンペア)
で決定されます
例えばAmazonなどでよく売っている『PD 3.1 140W 充電器』というものがあったとします
これは先に書いた通りPD3.1プロトコルなわけですから、電流上限は常に5Aであり、デバイス側がどの電圧に対応しているか確認(ネゴシエーション開始)した結果、デバイスが対応していれば、28Vという固定電圧に決定(ハンドシェイク)され、最大で28V × 5Aで140Wまでの電力が供給できるということになるわけです

ネゴシエーションとは、プロトコルが確定したあと対応できるPDOを充電器が提示し、デバイス側が「20V/5Aで」などと返答し、充電器側が「了解」と返答するまでの一連の流れの事を指します。ハンドシェイクとはこのうち、充電器が受諾しPDOが決定された瞬間のことを言います
用語について
こっちを先に書くべきでした……この記事中に頻出するであろう用語を簡単にまとめておきます
| TDP | Thermal Design Power(熱設計電力)の略でCPUやGPUが最大負荷時に発する熱量の目安を示す指標のことであり、単位はW(ワット)だが消費電力を示すわけではない |
| TSP | Total System Powerの略で、システム(PC)全体の総消費電力のこと。海外Geek達と話しているとよく使われているが正式な名称なのかは不明 |
| コールドブート | 電源オフの状態からシステム(PC)を起動すること。同じく、海外Geek達と話しているとよく使われているが正式な名称なのかは不明 |
以上で前置きは終了です。次の章から本題になります
なぜRyzen AI Max+ 395をUSB Type-C給電で起動できるのか
ようやく本題です
では私の手元のGPD WIN 5(Ryzen AI Max+ 395)をUSB PDで起動できるのか? というと、これは出来ません。出力は関係ありません。140Wの充電器でも240Wの充電器でもコールドブートは不可能となっています
ではUSB Type-C給電ではコールドブート出来ないのかというと、一部の充電器では出来ます
基礎知識の章で話したことになりますが、ここが誤解されやすく気をつけないといけない点になっているわけですね
残念ながら現在は、USB給電、特にType-C給電や急速充電のことを一緒くたに『USB PD』と言ってしまっている現状があるわけですが、実は同じUSB給電でもプロトコルは様々だということを書きました
ここでポイントになるのが電圧です
GPD WIN 5やGPD WIN Max 3、そして恐らくはONEXPLAYER APEX等もでしょうが、これらデバイスのUSB4ポートが対応しているPDOは最大20Vとなっています。少なくともGPDはこの点を明言していますので確実です
何度も書いている通り、USB PDは規格上、電流上限は5Aとなっています。これはそもそも、USB Type-Cポート自体が5Aまでの電流に対応するという設計になっているためです
さて
以下はGPD WIN 5をコールドブートした際の消費電力で最も値が高かった瞬間です
例えTDPを低く設定していたとしても(この時はTDP28Wでした)、起動時には一瞬の電力スパイクによってはるかに大きな電力が要求されます。画像では136Wと表示されていますよね? PC自体にバッテリーが無いので、この電力要求に応えられなければPCは起動できず落ちてしまうことになります
しかしUSB PDは規格上5Aまでの電流しか流せないため、PC側が20Vの電圧にしか対応していない以上、どんなに頑張っても充電器は100Wまでの電力しか流せないことになります。実際には電力ロスがあるのでもっと低いです
いくら充電器側がPD 3.1/3.2に対応していて、140W給電! とか、240W給電!! とか言っていたとしても、USB PDでは絶対に要求電力に応えられないからコールドブートに失敗するということになるわけです
これが「USB PDでは起動できない」の意味になります

逆の言い方をすると、この電力スパイクに耐えられさえすればいいので、PCにバッテリーを装着しておきさえすればUSB PDでも起動は出来るし、起動後のTSPが100W未満であれば、バッテリーを消費することなくPDだけで動かし続けることも可能ということになります
ではなぜ、一部の充電器ではコールドブート出来るのか
ここまで読んできていただいた方ならお分かりかと思いますが、USB PDでは無理なのだから他のプロトコルを使用している、ということになるわけですね
まずブート可能な一部充電器とは何なのかということを説明しておくと、これはLenovo(Thinkplus)の一部充電器やモバイルバッテリーのことを言っています
LEGIONなど一部Lenovo製品は、USB Type-C給電でありながら140Wの給電に対応しています。しかし実はこれはUSB PD 3.1ではなく、20V/7Aという固定電圧のLenovoの独自プロトコルになっています。電圧が20Vでありながら電流側を7Aに引き上げることで、140Wという電力を実現しているわけなのですね
つまり、このプロトコルに対応しているのだとしたら、ポートが20Vまでの電圧しか受け付けない仕様であっても、電流側を上げることで起動時の電力スパイクに耐えられるだけの電力を受け取ることが可能になるというわけです
これが「一部のType-C給電でコールドブート可能」の意味です
しかし何度も書いている通り、今の世の中の多くの方はこうしたUSB給電を一緒くたに「USB PD」と呼んでしまっています。ですので、実際にはUSB PDとは違うプロトコルで通信されているにも関わらず「USB PDでコールドブート出来る!」みたいな書き方がされてしまうわけです

過去記事で私も分かりやすさを優先してざっくりとそう書いてしまった記憶もあります。いや、Lenovoのプロトコルについては触れていたかもですが、私のような人間のせいで誤解が蔓延っていくのですよねすみません
なぜLenovoのプロトコルを使えるのか
これについては確かなことは分からないので推測になりますが
実はこの「LEGIONの充電器などではコールドブート出来まっせ」というのはGPD側が言い出したことではありません。今でこそドヤ顔でメーカー側もアピールしてますが、気づいたのは海外のGeek達になっています
つまりGPD側が意図的にそうした設計にしたわけではないわけです。それなのになぜLenovoの独自規格が使えるのでしょうか?
これは恐らく、偶然の産物ではないかと思います
GPD(そして多分ONEXも)のUSBポートを管理しているのは、オリジナル設計のものではなく汎用的なマルチプロトコル対応のICチップです。OS上から詳細を知るのは困難ですが、よく使われているのはRealtek、ASMedia、Texas Instrumentsなどかと思いますのでそうしたものを使っているのでしょう
恐らくこのチップの中にはLenovo独自のプロトコル(Fixed 20V 7A)が組み込まれているのではないかと思います。汎用チップの基本的な挙動として、最初にプロトコルを決定する際には最もワット数が大きくなる組み合わせを選択する、というものがあります
GPD WIN 5のUSBポートは20Vまでしか対応していないわけですから、USB PD 3.1の充電器を挿してもそれは100Wまでしか引き出せません。しかし20V/7Aというプロトコルにたまたま対応していたことで140Wまでの電力を引っ張ってこれるようになり、それが偶然電力スパイクの範囲(130W前後)だったため、コールドブートが可能になっている、というのが予想できる結論です
7Aを流すことのリスクについて
これも繰り返しになってしまいますが
USB Type-Cポートは基本的に5Aまでの電流に対応しています。多少安全上のマージンを取ったとしても5.5A程度までの電流を想定していることでしょう
このポートに7Aの電流を流すことのリスクを考えてみます。最初に書いておくとリスクはあると思いますので自己責任で使う必要があるでしょう
Lenovo(とか一部のDELL製品など)が5Aを超える電流をUSB Type-C給電で実現できているのは、当然デバイス側にも対策を施してのことです。具体的には金メッキや低抵抗合金を厚くしたコネクタの補強や、はんだ付けを強化するなどした基板の補強などだと予想されます
しかしさっきも言った通りGPD製品が7Aの電流でコールドブートできるというのは、言ってみれば偶然の産物です。当然そのような補強がなされているとは思えません
と言ってもStrix Halo自体が100W級の電力を消費するチップですからメインボード自体の回路は大丈夫なのかもしれません。しかしUSBポートそのものの電力ピン(VBUS)、あるいはコネクタそのもの、あるいはUSB4ポートからメイン回路への引き込み線や接点がオーバーヒートしたり融解したりする可能性はあり得ると思われます
では絶対にやってはいけない行為なのか? というと、「リスクを下げることなら可能」となるかと思います
起動時のスパイクは本当に一瞬です。モニターしている限り時間にしてたぶん1秒弱程度ではないかと思われます。それが起動完了するまで断続的に複数回起きる感じです。起動中でも100W未満のタイミングも多いです
Type-Cが定める上限5Aというのは定格電流を想定しています。そして一般的に電化製品というのは全て、突発的な大きな電流(サージ)に耐えられるように設計されています
この1秒前後だけは負荷がかかりますが、GPD ToolやMotion Assistant、HHDなどのユーティリティでTDPを低く設定しておけば起動後のTSPは100Wを超えなくなります。電圧は20Vで固定なわけですから、電流は常に5A未満の状態で使用していくことが可能となります
これにはリスクはありません
ただ何度でも言いますが、リスクがゼロになるわけではないと思います。コールドブート時の電力スパイクではUSBの規定以上の電流が流れるわけですから、一瞬のこととはいえ微小ながらも負荷は累積していくものと思われます
やはり常用は避け、緊急時のTIPSやロマン的小ネタとして捉えておくのがいいのではないかなというのが私の感想です

DiscordやRedditにはそのままゲームやったりTimeSpyを回したりしてる人がいるけど心配になってしまいます
USB給電によるコールドブートの使い道について
最後に。そもそもの話になりますが、この小技の使い道はどのようなものがあるのか考えてみたいと思います
USB給電だけでコールドブートしないといけない状況とはなんでしょうか?
恐らくバッテリーもACアダプタも手元に無いのだと思います。その代替としてUSB給電をするのだと思いますが、これが充電器なら良いとして、今回の記事で例に挙げているようなモバイルバッテリーであった場合にはバッテリー残量分しかPCを使えません

起動しちゃえば(TSP100W未満なら)USB PDでも動くんだから普通の充電器と挿し替えちゃえば?
と思うところなのですが、GPD WIN 5やGPD WIN Max 3の給電可能なUSBポートはUSB4ポートひとつだけです
普通のPD充電器と挿し替えようとしてモバイルバッテリーを外した瞬間にPCが落ちます(ToT) どう頑張ってもモバイルバッテリーの残量分までしか使うことは出来ないということです
これでは何のために使うのか分からなくなってしまいます。もちろんType-Cではなくバレルジャックや外付けバッテリーを接続すればモバイルバッテリーを外せますが、それらが手元にあるなら最初からそっち使えばいいって感じですよね
ちなみに、今回私が使っているLenovoのモバイルバッテリーはパススルー給電が可能となっています。つまり最初からパススルー状態にしておいたり、起動後でもバッテリーの残量が減ってきたらType-C充電器をPCではなく充電器に挿すことで、バッテリーの制約はなくなります。充電器と同じように使えるわけです

パススルーのため充電器を接続した瞬間に瞬断が起きてPCが落ちるのではないかと思っていましたが、挿した時も抜いた時も落ちませんでした
役立つのはこのケースだけだと思います
すごく限定的で、このためだけにLenovoのプロトコルに対応したモバイルバッテリーを買うというのはあまりおススメ出来ないなと思いました
ていうかよく考えたらこの欠点はRyzen AI Max+ 388でも同じことのように思えますね。まあでもコールドブート時の規定以上の電流というリスクが無いという点ではやっぱり優れているとも言える……のかな?
まとめ
ということで今回は、Ryzen AI Max+ 395をUSB給電でコールドブートすることについて書かせていただきました。久々にウンチク系の記事を書いた気がします
Ryzen AI Max+ 388はこうした問題が起きずPD充電器(上限100W)で使えるというのは安心感があり、その点は大きなメリットなのでしょうね

※ただしTDPによってはコールドブートに失敗するという報告もあるので注意も必要かもです
なおGPD機の場合にはBIOSからRyzen AI Max+ 395のCCDを片方無効にして8コアにすることが可能となっています。これであればRyzen AI Max+ 388と同じ8コアCPU&40CU GPUとなりますので、もしかしたらPDでも起動できるのかもしれません。が、未検証です
CCD無効はゲームをやる人にはいいのでしょうが私の使い道にはあってませんので試す気になれませんし、そもそも今は388があるわけですからゲーム目的なら最初から388を買えば済む話ですよね。その方が安いですし
ということで今回はこのへんで。最近は全てが値上がりしてしまってガジェットを気軽に買って試すことも難しくなってきてしまいました。このブログもいつまでやれることやら……ですが
それではまた~





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