※11月6日:主にコントローラーについて色々と追記更新しました(マニュアルが公開されて詳細スペックが分かったため)
こんにちは、ドローンインストラクターをしておりますりんごロイドです
既にリークで全漏れだったDJIのドローンMavic 3ですが、ついに発表・予約開始となりましたね。私も早速予約をしました
到着が楽しみなわけですが、これまでドローンの仕事をずっと続けてきてDJIの製品もたくさん見てきた身としては、Mavic 3シリーズにはちょっと色々“もにょる”ところがあるのも事実です
今回の記事では「予約したはいいけど実際のところ不満な点・不安な点」を、若輩ながらプロの視点で書いていきたいと思いますので、買うかどうしようか迷っている方やモデル選びに悩まれている方の参考になれば幸いです
自腹購入なので提灯レビューはせず正直に書いていきます(笑)
Mavic 3(あるいはFly Moreコンボ)かMavic 3 Cineか
細かなスペックの違いは公式サイトでいくらでも見れるので書きません。ここでは両者の価値について考えてみたいと思います
Mavic 3にせよMavic 3 Cineにせよ、どちらもカメラ性能に違いはありません。違いは大きく2点
- 1TBの内蔵SSDの有無
- ProRes 422 HQコーデックの対応の有無
になります。それに対して価格の違いは
- Mavic 3:253,000円
- Mavic 3 Fly Moreコンボ:341,000円
- Mavic 3 Cineコンボ:583,000円
とかなり開きがあるわけですね。といっても付属品の数が違います。本体以外でMavic 3 Cineコンボにだけ付属しているのは
- DJI RC Pro(スマコン):132,000円
- バッテリーが2本追加:23,100円×2
- バッテリー充電ハブ:9,900円
- プロペラが3セット追加:2,420円×3
- NDフィルターセット1:18,700円
- NDフィルターセット2:18,700円
- キャリーバッグ:30,800円
- 高速データ転送ケーブル:非売品
ということでオプションの価格は263,560円となります。すると本体だけの価格差は
- Mavic 3:253,000円
- Mavic 3 Cine:319,440円
となりますね
プラス6万円でこの性能差なら悪くないのかな……と一瞬思ってしまいそうになるわけですが、ここにちょっと罠が潜んでいるのかなと思いました
付属品高すぎじゃね?
問題です
今回のMavic 3アクセサリーは、前モデルまでのものと比べてかなり高くなったなと感じました(だからFly Moreコンボも高い)
このうちバッテリーについては4セルの5,000mAhにスペックアップしてますので、Phantom 4シリーズと同じ2万円オーバーになってしまうのは納得できます
がしかし、それ以外のアクセサリについては軒並み1.5倍から2倍の価格付けになっています。特にキャリーバッグなんて3倍です。ていうかこのバッグに3万円の価値なんてあるのでしょうか?
恐らくなのですが、DJIはMavic 3 Cineにプレミアムな価値(と価格)をもたせたかったのでしょう。しかし両者のスペック差があまり無いため、Cineモデルの価格を吊り上げることが難しくなってしまったのではないかと思います
もしMavic 3 CineがZenmuse X5SやX7のような12bitのCinema DNG RAWやProRes RAWといったRAW動画に対応していたのであれば、2倍以上の価格が付いていても喜んで買う人も多かったでしょう
しかし結局は4:2:2 10bitのProRes 422 HQまでしかなく、確かにそれでも有難いのですが2倍以上の価格の価値があるかというと……アドバンテージは薄いかなと感じます
ではノーマルMavic 3の方をスペックダウンするかというと、既にMavic 2で10bit HDR撮影やLog撮影に対応してしまっているのでそれをオミットすることも難しい
ということで苦肉の策として、アクセサリー各種を値上げしそれらを付属することで、高価な価格付けに納得させようとしているのではないかと感じてしまうのです
でも、後からファームアップでProRes RAWに対応してきたりしたら泣ける
ちなみにSSDが付属しているのは単純にSDカードではProResを撮影するのに必要なビットレートが満たせないからで、利便性というよりは無いと始まらないから付いているという差異でしょうね
ProResにどれだけの価値がある?(読み飛ばし可)
これはAppleのせいもあるとは思いますが、ProResで撮影すると画質がグッと向上して映画みたいな映像が撮れると誤解している方が多い気がします。iPhone 13でいかにもそんな体でプロモーションしてますが、これは正しくないです
元々ProResはAppleが開発したポストプロダクション用の中間コーデックで、その特長は高ビットレートでありながら編集時は(非圧縮RAWに比べたら)軽く、エンコードデコード耐性が高いというものになります
非圧縮の真のRAW動画とは、つまりは各フレームがRAW写真そのものです。収録時に膨大なストレージ容量が必要になるし、編集時のマシンへの負担も相当なものになってしまうため、一般ユーザーにとってはあまり現実的じゃないんですよね
その点ProResというのは、確かに圧縮してるけどRAW動画ほどではないにせよ編集耐性はH.264とかH.265よりはうーんと高いし、その分ファイルサイズもデカいけどRAW動画に比べたら扱いやすいよ、というのが利点なわけです
ちなみにProRes全般のことをRAW動画という人がいますがこれは正しい表現ではありません。ProResはあくまでコーデックであり、MPEG-4とかH.264とかH.265と同列で語られるものです。それとは別に、ProResにもProRes RAWというRAW動画がちゃんとあるのです
ProResの扱いやすさとRAW動画の柔軟性の良いとこどりした形式というのが強みです
※ただしこのProRes RAWというのも実際のところは圧縮されている形式であり、発表当初から「これがRAW動画を名乗るのはどうなの?」という意見はありました。実際、現在主流のRAW動画と言われるもの(BlackMagic RAWとかProRes RAW)は圧縮された形式であり、RAW(生って意味)とは? という感じになっちゃってます
動画だけでなく静止画もですが、最近は圧縮形式・非可逆圧縮形式でもRAWと呼ばれることがあってそのファイルサイズの軽さが重宝され浸透しているため、何だかややこしいですよね(笑)
話が逸れてしまいました。ではどんな人がProResの恩恵を受けるのかと言えば、シンプルに大雑把に言うなら『こだわった編集をしたい人』ということになります
ドローンの空撮映像は特にですが、撮影した映像をそのままポン出ししても作品にはなっていません。いくらキレイな風景でも30秒とか1分とか見せ続けられたら飽きてしまって見るのが苦痛になります。音楽やナレーションにもよるけどワンカット5秒~10秒ぐらいがいいかと思います
すると、ちゃんとした作品を作りたいなら必ず編集が必要になるわけですが、そうした際にエンコードを複数回重ねたり、大胆なカラーグレーディングやカラーコレクションを行って色を整える/大胆にアレンジする等しても、映像が破綻しにくいし作業も軽快だよというのが、編集耐性の高いProResの利点なわけです
逆に言えばそれほど複雑な作品作り(編集)をしない場合であれば、ProResのメリットは活かしきれないとも言えます。複雑な作品とは先に書いたようなものが一例であり、カラー調整はほぼしないで複数のカットをつなげるだけとかの編集は該当しません
後でも書きますがこの機種はDJI Flyアプリを使用しますしマスターショットも搭載しています。お手軽にプロっぽい映像を撮らせるというのがコンセプトの一つにあるように感じます
お手軽に撮らせる(編集まで自動でやってくれる)というコンセプトと、編集耐性の高いProResはマッチしていないように思います。DJIとしてはハッキリ二極化しているつもりなのかもしれませんが、趣味利用の人が勘違いしてしまう気もするのでここは長文を書いちゃいました
自分にとって本当に必要なのかを考えてからCineモデルを買うことをおすすめします
この章、1万文字ぐらい書いちゃってましたがあまりにも脱線してるので削除しました(笑)シンプルにしたので粗い説明になってる部分はご容赦下さい
Mavic 3本体に関する不満点
これは両モデルに共通する不満な点
バッテリーと充電器について
Mavic 3ではUSB Type-Cによる本体充電が可能になりました。これによって利便性が向上するぜ! ……と思いきや、従来モデルには無かったとんでもない罠が潜んでいます
バッテリーの充電端子は従来バッテリーと同様に専用端子になっています
が、なんとMavic 3には専用コネクタの充電器が付属しないようです。付属するのはType-C充電器だけ! そしてType-C充電が可能なのは本体に装着している時だけ
つまり、機体を飛ばしている間に別のバッテリーを充電しておくということが出来ないのです。これは究極に不便です
じゃあどうすればいいのかというと、別売りの充電ハブを購入するしかないってことになっちゃうわけです。うーん、改悪だなぁ
ただしCineモデル(と通常モデルのFly Moreコンボ)には最初からバッテリーハブが付属しますのでこの点は問題ないですかね
望遠カメラについて
Mavic 3はモデル問わず4/3インチの広角カメラと1/2インチの望遠カメラのデュアルカメラ構成になっている点が最高にナイスです
これは28倍ハイブリッドズームと言われていますが、正確には4倍デジタルズームになります。24mmの広角カメラに対して、望遠カメラは約7倍の162mmという焦点距離を持っています(どちらも35mm版換算)それが4倍のデジタルズームなので28倍というカラクリ
詐欺スレスレの書き方じゃねーかと思わないでもないですが、最近のスマホはみんなこの書き方(たぶんSamsungかAppleが最初に始めた?)なのでそれはまあ良しとします
納得がいかないのは、この望遠カメラの方は使用にあたってかなりの制限がある点です
- 望遠カメラは『探索モード』時のみしか使用できない
- 探索モードは『プロモード』に対応していない
- 望遠カメラではRAW撮影はできない
- 望遠カメラではProRes撮影はできない
- 望遠カメラのフレームレートは30Pで固定(4KでもFHDでも同じ)
- 望遠カメラの露出は自動のみ
こういった制限があるようです。センサーが違うので仕方ないのですが、もしかしておまけ程度なのか…? Zenmuse H20シリーズのようなシームレスな望遠/ズームを期待しているとちょっとガッカリさせられそうです
『プロモード』が何を意味しているのかは不明ですが、『探索モード』というのは望遠レンズを使用したい時に切り替えるモードのようです
映像を見る限りでは探索モード中も機体は動いているようですが、ひょっとするとクイックショットの機能の一つにすぎないのかなという印象も受けます。もしそうだとしたら、活用範囲はガクッと下がることでしょう
良い意味で予想を裏切ってほしいのですが……
対応アプリの問題
これはもうずっと前からリークでも言われていたことですが、Mavic 3はDJI GO 4ではなくDJI Flyアプリで飛行させます
DJIのアプリは機種によってUIが変わりますので、Mavic 3使用時にはDJI GO 4並みに項目も増えて使えるようになると信じており、その点については今のところそこまで心配していません
問題なのはGS Proに対応していなさそうな点についてです
自動航行が出来ないという点だけ見ても痛いですが、測量業等ではもうPhantom 4 RTKを使ってくれってことなのかもしれないのでそれはいいとして(どうせMavic 3にもメカシャッターは無いですし)、気になるのは申請の際の問題です
目視外飛行を申請する際には「メーカー指定の自動操縦システムを装備していること」というのが追加基準のいちばん基本に入っているわけですが、GS Proに非対応となるとこの基準を満たすことができません
申請自体は無理ではないでしょうが、資料の作成等の手間が増えてしまうというのはかなりツライところです。これについては次章のプロポについてで、さらに追記しております
DJI RC Pro(スマコン)について
機体と同時にリリースされた新しいスマコンについてです
スペックもアップしていますがその分値段も85,200円→132,000円と大幅アップしてしまいました
このスマコンが要るのかどうかというと、個人的にはそこまで重要視していません。付属の送信機と比較してどこが優れているのかというと
- 高輝度LCDディスプレイ内蔵(1000nit)
- スティックがDJI FPVコントローラーと同じものになっている
- Wi-Fiクイック転送機能が使える(Wi-Fi 6)
- レイテンシー(遅延)がちょっとだけ改善されてる。ノーマル:130ms、スマコン:120ms
- 後日発売の4G LTEドングルへの対応はスマコンのみ(?)
ぐらいでしょうか
メーカーサイトはすごい紛らわしい書き方で、まるでスマコンだけがO3+(OcuSync3+)に対応しているかのように書かれていますが、実際には付属のコントローラーでもO3+に対応していると思われます
どちらのプロポでも同じ伝送距離ですよね。同じ通信方式がとられています
いやいや、DJI Air 2とかDJI Miniと同じコントローラーなんだからO3+に対応してないんじゃないの?
と思われるかもしれません
実はOcuSyncというのは、PhantomやInspire等で使われていたLight Bridgeとは違いソフトウェアベースの伝送システムになっています。ハードウェア要件(主に発熱)が許すのなら、既存のハードウェアでも伝送システムをアップグレードできることがOcuSyncの強みなのです
これについては同じようなシステムを取っているDJI Air 2SのFAQが参考になります。Air 2SもMavic 3と同じプロポを使用しており、機体はO3映像伝送ですが、プロポはOcuSync2.0となっていますが
というわけ。通常コントローラーでもO3の映像伝送を受けられるってことです
逆にそれができなかったらAir 2Sの「O3伝送」というのは完全な嘘になってしまう(旧スマコン自体もOcuSync2.0)ため、Mavic 3についてもO3+伝送(受信のみ)が出来るのはほぼ確実でしょう
さて。ドローンには非常に重要な2つの通信があります。一つは映像伝送でドローンから送られてくるもの、もう一つは操縦伝送で送信機から発するものです
そう。つまりメーカーがやたらとアピールしている「O3+」というのは機体からの通信(OFDM方式)ということなんですね。だからどちらのコントローラーでも対応できるということ。では操縦の通信(FHSS方式)はどのような伝送システムが取られているのでしょうか
付属のコントローラーについては通信方式はOcuSync2.0であることが明記されています
一方で新しいスマコン(DJI RC Pro)はというと……なんとまだ明かされていませんでした。が、私はここについては従来のスマコン同様、OcuSync 2.0なのではないかと疑っているのです。スペックが明かされないと分かりませんが
もしスマコンの伝送システムがO3+になっているのだとしたらスマコンを買う価値はあると思いますがそうでない場合には、うーん……要らないかな
※以下、11月6日追記
マニュアルが公開されこのあたりの詳細が判明しました
まず、スマコンは伝送方式がO3+であることが確定しました。疑ってしまってごめんなさい
次に標準送信機ですが、こちらを利用する際には(電波環境が良い場合)機体からの伝送はO3+で送信機からの伝送はOcuSync2.0のハイブリッドであることが確定。こちらは予想通りでした
ということで、O3+の恩恵をフルに受けたい人はスマコンの選択アリだと思います。ただしディスプレイ目当てではあまりおすすめしません。最近のスマホは1000nit近い輝度を持っている機種も多いですし、モバイルデバイスに不満が無いなら買う必要はないかなというのが個人的な意見です
本当にこのままDJI Flyアプリにしか対応しないのだとしたら、Mavic 3は自動航行が出来ない機体ということになってしまいます。仮にもフラッグシップを名乗る機体でそんなことをするでしょうか?
私は、もしかしたらMavic 3はDJI Pilotアプリに対応してくるのではないか? と疑っています。そしてその際にはスマコンが必須になってしまうのではないだろうかということが心配だったりするのです
現状のDJI Pilotアプリは、Android版こそ色々な機種に対応していますがiOS版はMavic 2 Enterpriseしかサポートしていません。なぜこうなっているのかというと、スマコンがAndroidベースの送信機だからです
業務利用したい人はスマコン買ってね♪
ってことなわけです。先にも書いたように、Mavic 3シリーズは一般ユーザーとプロユースを強引に線引きしているようなところが見受けられます。だからCineモデルにだけスマコンをつけて、そしてプロユースのPilotアプリはスマコン持ってる人しか使えないようにしたいのではないかと感じてしまうのです
杞憂ならいいのですが……
ちなみに現時点において新スマコンにプリインストールされているDJIアプリは、DJI Flyのみのであることが明かされています
まとめ
ということで、予約したはいいものの、現時点で不満なこと・不安に感じていることをまとめさせていただきました
予想(妄想?)な部分も多いので心配し過ぎで終わってくれたらいいのですが、現状のMavic 3はDJI Air 2Sの正統進化版であって、Mavic 2 ProやPhantomシリーズを置き換える機種にはなっていない部分もあると感じます
これを改善していってほしいんですが、その際にスマコン必須とかされるとそれはそれで悲しい……
理想としては、GS Proに対応する、もしくはDJI Pilotアプリに対応する(もちろんiOS版も)をしてくれないと、ちょっとPhantom 4 ProやMavic 2 Proは手放せないかなぁと感じています
なんにしても到着を待ちたいと思います
それではまた~
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