ドローン専門家から見る「DJI Digita FPV System」 日本で使える? スペックや電波法

DJI Digital FPV System 解説 NEWS

プログラミング対応ロボに新型ローニンにミラーレスカメラ(これは別記事で解説)にと、新商品の発表が止まらないDJIですが、新たな分野のひとつとしてFPVに主眼を置いたドローンシステムが登場します

名前もズバリ「DJI Digital FPV System」とそのまんま

今までやってこなかったのが不思議で「これを待ってた」という人も多いと思いますが、日本で使おうと思うと色々と注意しないといけない点もありますので、今回はドローン専門家としてだけでなく電波の専門家(階級は低いですが)としての目線からも、この製品を解説していきたいと思います

なお、商品説明や公式サイト、PDFマニュアルなどをかなり読み込んだのですがはっきりしない部分が多いため、間違っている情報があったらごめんなさい。気づいた場合、ご指摘いただけると嬉しいです(見落としだったらそれもスミマセン)

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DJI Digital FPV Systemの概要

「そもそもDJI Digital FPV Systemって何?」 という方のために、まず製品概要をご紹介します

DJI Digital FPV SystemはDJIが新たに取り組みを開始した製品の名称で、FPV(First Person’s View=一人称視点)に特化したドローンシステムのことです

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

機体を見ながら操縦するのではなく、FPVゴーグルを装着しドローンが撮影する映像を見ながらまるでコックピットに乗り込んだような視点で操縦するフライト方法です。目視外飛行ですので航空法のルールに抵触し、飛行申請し承認を得ないと行うことができません

この製品の最大の特徴は、ドローン本体が付属していないことです

ただし映像伝送装置(VTXと呼ばれる機器)及び映像撮影装置、送信機との送受信ユニットは付属しています。ちょっと分かりにくいので、製品に何が含まれているかをリストにしてみますと

  • プロポ(付属しないセットもある)
  • FPVゴーグル
  • FPV Air Unit

となっていて、FPV Air Unitというものが映像伝送や映像記録、プロポとの送受信を可能とする複合的なユニットとなっています

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

つまりユーザーはこのDJI Digital FPV Systemに加えて、レーシングドローンを一機、用意する必要があるということになります(カメラやVTXを除く)

DJI Digital FPV System 解説

FPV Air Unitと既存のドローンとの接続はハンダ付けになりますので、そういた意味でもこのシステムを使うための条件として「レーシングドローンを組み立て、用意できるだけの知識のある人」という点は重要なのだと思います

ということでDJI Digital FPV Systemはドローンではなく、今持っているレーシングドローンの操縦システム及び映像伝送システムを置き換えるための製品、ということになります

DJI Digital FPV System 解説

例えば私が使っているこのシステムですが……

プロポ付きのDJI Digital FPV Systemを購入したなら、ドローンからカメラ・VTX・ゴーグル(FatShark)・プロポ(FutabaのT10Jと、その送受信機)を取っ払ってDJI Digital FPV Systemに置き換えることになります

プロポの付属しないDJI Digital FPV Systemを購入したなら、カメラ・VTX・ゴーグル(FatShark)だけを取っ払ってDJI Digital FPV Systemに置き換える――というような使い方になります

DJI Digital FPV Systemのスペック

使い方が分かったところで、DJI Digital FPV Systemのスペックや特長を見ていきますと

  • 最大伝送距離4km、レイテンシー(遅延)28msのビデオトランスミッター
  • ゴーグルの性能は最大720Pで60fps(※)なので鮮明な視界を高フレームレートで確保
  • 録画性能は最大でフルHD60fps
  • カメラの画角は超広角。FOV150°で広い視界を確保
  • 専用プロポを使えばコントロールの伝送距離も4km。レイテンシー(遅延)は7ms
  • 最大8台の同時使用が可能なので8人まで同時にフライト可能
  • FPV Air Unitの重量は45.8g。VTXとしては重いです

こんな感じとなっています

ゴーグルの性能に※印がついていますがこれはよく分からないところで、サイトトップには720p/120fpsの表記があります。しかしゴーグルの紹介のところには720p/60fpsと書いてあります。さらに仕様表を見ると810p/120fpsと書いてあります

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

これはどういうことなのか(笑) 左右60fpsずつで合計120fpsとか? そのあたりよく分かりませんでしたので、最も低フレームレートな60fpsとして記載しました。それでもデジタル伝送の鮮明な画像が60fpsで見られるのならかなり魅力的である点は変わりありませんけどね

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

それと伝送されてくる映像は、シチュエーションに合わせてコントラストや彩度を変更できるモードが備わっています。日中の屋外とLED煌めくレース場では見やすい写り具合が変わってきますので、これは嬉しい機能ですね

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

その他の性能(特長)も見てみましょう

専用プロポ(DJIはこれを「DJI FPV RC」と呼んでいます)を使うことで、操縦可能範囲が最大4kmとなります。これはレース用ドローンとしては考えられないぐらいの距離です。オーバースペックじゃないかという気がしますが、性能としてはスゴイです

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

ところでこのプロポ、販売サイトを見てみると、わざわざMODE1とMODE2を別々にして売っていることが分かります

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

このことから、スティックはセンタースティックではなくスロットル側にはスプリングの入っていない仕様となっている可能性があります。レース用としてはその方が良いので欠点ではありませんが購入時には注意して下さい

撮影性能もレース用ドローンとしてはかなりのものですね。レンズの性能がどこまで優れているのかによっても変わるでしょうが、フルHD/60fpsでの撮影が可能となっています

今までの空撮用ドローンとは一味違ったハイスピード世界の映像を、鮮明に記録できる可能性がありそうです。少なくとも「RunCamとかで撮るのとは次元が違うだろうなぁ」というのは想像に難くありません

カメラの視野角が広いのも周囲の状況がよく分かっていいのではないでしょうか

それから8台同時使用可能と掲げられているスペックについてですが、これはDJI Digital FPV Systemが8つのチャンネルに分けて通信を行えることからこうした記載となっています

DJI Digital FPV System 解説

マニュアル引用:DJI

周波数帯は上記のような感じ。製品説明に5.8GHzとあったような気がしますが、5.7GHz帯ですね。他の装置からの干渉を回避するため、手動でチャンネルを変更することが可能となっています(デフォルトは8)

最後に重量についてですが、性能を考えると仕方がないとはいえ45.8gというのはVTXとしてかなり重いです

いやまあ、カメラとプロポの受信機も込みでこの重量ですのでそれを思えば満足なのですが、もしDJI FPV RCを使わないのであればカメラとVTXだけで45.8gということになります。アナログにはなりますが、一般的なVTX+カメラの重量が25g程度であることを考えるとこの重さはうーん……

DJI Digital FPV Systemの不安・不明な部分

先に良いところをたくさんみてきたDJI Digital FPV Systemですが、今度は気になるポイントを見ていってみたいと思います

まず根本的な話なのですが、システム自体が分かりにくいという点を挙げさせていただきます

メーカーサイトを読んでいくと、「FPV Air Unitにはフライトコントローラーが内蔵されている」という表記を見つけることができます

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

これだと冒頭に解説した内容とは話が変わってきて、ユーザーはフレーム、モーター、(ESC)、バッテリー、プロペラさえ用意すれば使用可能であるということになります

しかしもう少しサイトを読み進めていくと、推奨するシステムとしてTmotorのフライトコントローラー(兼ESC)が紹介されています。つまり、別途これを買いなさいということですよね。ということはフライトコントローラーは内蔵されていないということになります

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

私はサイトを熟読した結果、恐らくフライトコントローラーは内蔵されていないだろうという結論に達したので冒頭の通り、VTX及び操縦システムを置き換える装置と解説していますが、もしかするとFCが本当に内蔵されている可能性もあるかもしれません。分かりにくいっ!

それからこちらは不満な点になります

先ほど紹介した通り、FPV Air Unitにはプロポとの送受信機が内蔵されています。しかしこれは「DJI FPV RC」と接続するためのものであり、DJI FPV RCを使わないなら無用の長物となります

DJI StoreにはDJI FPV RCが付属しないキットが最安として売られているわけですので、操縦システムは従来のもの(私の例で言えばFutaba T10J)をそのまま使いたいという人もいるかもしれません

DJI Digital FPV System 解説

画像引用:DJI

その場合には別途、T10Jの受信機をドローンに載せないといけないわけですので、FPV Air Unitに組み込まれている受信機は単なる重りでしかありません。レーサー機はいかに重量を軽くするかという点も重要なポイントであるのにこの仕様はどうなのでしょうか?

そもそもデジタルVTX自体がアナログと比べて重いですので、そういう意味でも表彰常連のレーサーが使うかどうかは……うーん?

日本で使うことができるのか?

これは気になる人も多いのではないかと思います。DJI Digital FPV Systemを日本で使えるのかどうかという点ですが

まず、結論から言うと「手間はかかるけど使える可能性はある」と思います

DJI Digital FPV Systemは通信に5.7GHz帯(メーカー表記は5.8GHz帯)の電波を使用しています。この周波数帯の電波は日本において、無線従事者免許が無いと使うことができない電波となっています

無線従事者免許って何? という方もいるかもしれませんが、アマチュア無線技士とか陸上特殊無線技士といった資格なんかがそれにあたります

DJI Digital FPV System 解説

DJI Digital FPV Systemを日本で使いたかったら、まずこれらの免許の取得は必須となります

趣味で使うならアマチュア無線でOK。業務で使う(対価を得る)という方は陸上特殊無線技士でないとダメです

 

続いて、無線局の開局届けというものが必要になります。これは言ってみればもう一つの免許で、先ほどのアマチュア無線が人に対する免許だとすると、こちらは機器に対する免許と言えます

この申請の手順は、技適があるかないかによって変わってきます

もしDJI Digital FPV Systemが日本の技適を取得するという神対応をとってくれたら……総務省に開局申請をするだけで済みます。開局申請(電子申請が可能)の際に「技術基準適合証明設備の使用」という部分を選べますので、問題なく申請が通ると思います

しかし世の中のVTXのほぼ全ては日本の技適をとっていません。恐らくDJI Digital FPV Systemも同様だと思います。そもそもサイトが日本からは閲覧できないようになっているのも、そのせいではないかと思います

【8月24日追記】

日本の技適を取得してくれているらしいとのコメントが寄せられました! どろーんおじいちゃんさん、貴重な情報ありがとうございます

機器が技適を取得していない場合には、開局申請の前にまず「保証」というものを受ける手続きを行わなければいけません

要は「日本の技適を受けてないけど、この装置は問題ない機器だと保証しますよ」というものを専門の保証機関に保証してもらうという手続きが必要となるわけです。有名なのはJARDという機関。他にTSSというのもあります

この保証の際に必要となるのが「お金」と「回路図」です

お金については何台申請するのかによって変わってくるのですが、今回は映像のトランスミッターとコントロールのトランスミッターとプロポの3種になると思われます(※)。JARDで3台申請する時に必要な費用は6,000円です。まあ仕方ないかと納得できる額かなと思います

※ゴーグルは受信だけと思われるので不要。プロポはDJI FPV RCを使わない場合であっても、FPV Air Unitに送受信機が組み込まれてしまっているので申請が必要だと思われます

問題は回路図の方です

保証を受けるにあたって、その装置がどのようなものなのかを証明するための回路図(系統図)が必要となるのですがこれは基本的にメーカーに用意してもらうしか方法がありません。DJIがこれを用意してくれるかどうかは疑問です

その他の方法として「自力で解析する」、あるいは、この業界では有名な戸澤洋二さんが解析してくれるのを期待し、解析されたら「有料で系統図を購入する」ことでも申請が可能となります(場合によっては他の補足資料が必要になることもあります)

系統図を入手し保証が無事に受けられたら、総務省に無線局の開設届け申請を行います。申請を経て免許とコールサインが発行されたら、晴れて日本での使用が可能となります

めんどくさいですが、これらの手続きを踏むことでDJI Digital FPV Systemを日本で使える可能性があるということになります

さらに、ここからはもっと希望的な予測となりますが――

実はこの電波法ですが、規制緩和されるということが今年閣議決定されました。詳細は別記事に譲りますが、ざっくり言うと

技術的な革新のために電波を使用する場合、技適に相当する技術基準を満たすものであれば、総務省に届け出ることで誰でも180日間その機器を使用することが可能になる」

という内容です。2020年に開始される見込みとなっています

出典:総務省

ここで言う「技適に相当する技術基準を満たすもの」というのは例えばFCC認証などが該当すると言われており、先ほど紹介したようにDJI Digital FPV SystemはFCC認証を受けています

また「技術的な革新のために電波を使用する場合」という点においても、具体例の中に思いっきり「ドローン」と書かれていますので、この点も問題ないかと

使用できる人についても、これまでの90日ルールでは基本的に外国からの旅行者等限定だったのが全ての人がオッケーとなり、期間も180日に倍増されています

ただし認められる例が「実験等の場合」となっているのは少し気になるところ……。つまりこの規制緩和は「技術の発展のため」のものであり、個人がドローンを楽しむためという目的が認められるのかどうかは……神のみぞ知るといったところです

まとめ

ということで今回は、関心度は高いんだろうけどイマイチ分かりづらいDJI Digital FPV Systemについて、若輩ながらも専門家である私が、専門家視点でスペックや利用の可否について書かせていただきました

要点をまとめると

  • DJI Digital FPV Systemは特に通信距離や画質の面では素晴らしいスペックである
  • 使用するには別途ドローンを用意する必要がある(映像伝送とカメラ、操縦システムは不要)
  • 日本で使うには無線従事者免許が必須
  • 無線局開設が可能かどうかは神のみぞ知る
  • 仮に日本で使えるようになったとしても、飛行申請(目視外飛行)は必須

というような感じでしょうか

スペックだけで考えるなら、表彰台を狙うようなレーサーが選ぶ機材ではないような気がしますね。無駄にオーバースペックというか、そのせいで重量や大きさが増してしまってますのでね

ただ、レーサー入門や、世界を相手に戦うわけではないレーサーの方にとっては、取り回しがしやすいシステムと最高レベルのスペックは魅力的だと感じるかもしれません

現在日本に向けての公式なアナウンスは無いようですが、資金を山ほど持っているDJIですのでぜひとも日本の技適を取得していただいて使用するための敷居を下げてくれたら、レーシングドローンがもっと身近になって素晴らしいと思います

ただしどっちみち無線従事者免許は必要ですので、その点はお忘れなく

それではまた~

コメント

  1. DJI digital FPV systemに関してプロポ、ゴーグル、トランスミッターともに技適の確認が取れました。また、総務省に問い合わせたところ三陸得以上の資格での開局申請で使用可能との返答がありました。

    • どろーんおじいちゃん様
      貴重な情報をありがとうございます。ハードルがひとつ下がり、魅力的な選択肢となり得る可能性が高まりましたね

  2. 先日DJI AVATAが発表されましたが、こちらを日本で使いたいという要望が私のYOUTUBEチャンネルでも多数寄せられています。
    日本で使うにあたっての専門家の方のご意見をお伺いしたいので記事にしていただけると大変嬉しいです。
    機体しております😄

    • dLabさん

      コメントありがとうございます
      AVATAは日本の技適を取得しておらず、日本では無人航空機に利用不可能な5.8GHzを使用しており、その出力も日本の電波法の規格以上のものであると思われます
      なので残念ながら無理でしょうね。たくさんの労力とお金をかけてDJIのことも説得して資料をもらうというウルトラCを成し遂げ、個人技適を受けようと思っても上記の理由から不可能だと思われます

      よく誤解されるのですがレーサー機やWhoopなどでアマ無線を使って5.8GHzを技適保証受けて使ってる例があると思いますが、あれらは映像伝送装置(VTX)部分の無線局認定を(移動局として)受けています
      機体の操縦はやはり2.4GHzを用いており、これは、電波法上無人航空機では5.8GHzが使えないからということになります(業務用途であれば5.7GHzでの運用は可能。その際には三級陸上特殊無線技士以上の資格が必要)

      外国で飛ばすのが良いでしょう