Snapdragon 8cx搭載Windowsノート「Galaxy Book S」の性能を探る

Galaxy Book S NEWS

Qualcomm製のSoCを採用し、ARMアーキテクチャでありながらフルバージョンのWindowsを搭載するWindowsノートPC

通称「ARM版Windowsノート」などと呼ばれ、これまでにHPやLenovo、ASUSなどがリリースしてきましたが、この度SamsungからもARM版のWindowsノートがリリースされます。その名も「Galaxy Book S

これまでリリースされたARM版Windowsノートは、モバイル端末でも利用されるスナドラ835、そして世界初のPC向けARM SoCであるスナドラ850を搭載したモデルでしたが、今回SamasungがリリースするGalaxy Book Sは、世界初となる第2世代Windows用のSoc「Snapdragon 8cx」を搭載しているのが注目ポイントとなっています

今回はSnapdragon 8cxがどのような特徴を持ったSoCであるのかを解説しながら、Galaxy Book Sのスペックに迫っていきたいと思います

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Galaxy Book Sを軽く紹介

本題の前にGalaxy Book Sについてパパっと紹介だけしておきます。製品概要は他のニュースサイトさんとかでも飽きるほど触れられていると思いますのでチャチャっと終わらせちゃいます

Galaxy Book S

画像引用:Samsung

項目 スペック
CPU(SoC) Snapdragon 8cx 8コア/最大2.84GHz
メモリ LPDDR4X 8GB
ストレージ 256GB/512GB
OS Windows10
ディスプレイ 13.3インチ 1920×1080(フルHD) 10点マルチタッチ
インターフェース USB TYPE-C×2
通信 LTE(nano SIM)、Wi-Fi 5、Bluetooth5.0
特筆機能 GPS、指紋センサー、AKGチューニングスピーカー
バッテリー 42Wh
サイズ 305.2 × 203.2 × 11.8 mm
重量 0.96kg

このようになっています

特段目を引く機能はありませんが、やはり注目すべきはSnapdragon 8cxを採用したWindowsノートであるという事実でしょうね

実際、バッテリー容量は42Whと、普通かやや少ないぐらいの容量ですが、ARMのSoCを採用することによってこのサイズ・重量でありながら連続動画再生時間23時間を実現しています

Snapdragon 8cxとは?

先ほども書いたように、スナドラ8cxはPCに対応すべく開発されたSoCです。PC向けにという表現をとっていますがPC専用というわけではなく、PCを含めたあらゆるデバイスに使っていけるマルチプラットフォームなSoCとなっています

Snapdragon 8cx

画像引用:Qualcomm

このSoCはスナドラ855をベースにしつつも、CPU・GPUの両面において性能を向上させているため、現時点ではQualcomm製SoCの中で最高の性能を持った製品であるということが言えます

スナドラ855との違いを表にまとめてみます。ついでに第1世代であるスナドラ850も加えて見てみると……

Snapdragon 8cx Snapdragon 855 Snapdragon 850
CPU Kyro 495 Kyro 485 Kyro 385
CPUコア数 8コア
Cortex-A76+Cortex-A55
8コア
Cortex-A76+Cortex-A55
8コア
Cortex-A75+Cortex-A55
GPU Adreno 680 Adreno 640 Adreno 630
メモリ LP DDR4X LP DDR4X LP DDR4X
メモリ帯域 68.2GBps 34.1GBps 29.9GBps
プロセスルール 7nm 7nm 10nm

このようになっています。感覚的に分かりやすい部分だけを載せたのでざっくりした表になってしまいました。ちょっと補足しておきますね

まずCPU側ですが、前モデルのスナドラ850と比べると世代自体が上がっていることが分かります。さらにスナドラ855の上位にあたるKyro495が搭載されていることが見てとれますね

両者の最大の違いは動作周波数です。スペック表上はどちらも同じCortex-A76コア(2.84GHz)となっているのですが、スナドラ855がプライムコア1つで残りの3コアはパフォーマンスコアとして2.35GHz駆動であるのに対して、スナドラ8cxの方は4コア全てがプライムコアであり2.84GHzで駆動します。これによってCPUの地力をグッと引き上げることができるというわけですね。

ちなみに省電力側の4コア(Cortex-A55)は性能に直結しないため3モデルとも同じです

煩雑になってしまうため表には載せませんでしたが、システムキャッシュ(LLC)が、スナドラ855の5MBに対してスナドラ8cxでは10MBと倍に引き上げられています

LLCとは、Intel CPUで言うところの3次キャッシュにあたるのですが、厳密に言うと3次キャッシュ+大容量システムキャッシュの総称です

単純比較はできませんがイメージしやすいところを挙げると、Core m3-7Y30が4MBキャッシュ、Core i5-8250Uが6MBキャッシュ、Core i7-8750Hで9MBキャッシュとなっていますので、8cxはかなり豊富なキャッシュを搭載していることが感覚的に分かるのではないでしょうか?

3次キャッシュ量はPCの体感速度などに影響を及ぼしますので、キビキビとした動作を感じることができるのではないかと思われます(人によって「キャッシュの差なんて気休めだ」という人もいるぐらいなので、あまり気にしすぎなくてもいいかも)

GPU側の性能向上はもっと顕著です

ナンバリングが640から680へと大きく上げられていることからイメージできるかと思いますが、両者を比較すると1.2倍~1.3倍程度の性能差があります。これについては次章の「性能検証」でもう少し詳しく触れていきたいと思います

それからメモリ帯域が倍になっています

はじめに言っておくと、これは理論値です。スナドラ8cxはスナドラ855の4×16bitというバス幅が倍の8×16bitに引き上げられているため、同一メモリ規格・同一クロックのメモリを持つ両者ですので理論上は帯域も倍になるというわけですね

キャッシュが増え帯域も広がっているので、この点を見てもスナドラ855と比べて全体的に処理能力が向上していると考えることができます

それと大きな変更点が一つ

これまた表には載せていないのですが、Snapdragon 8cxにはPCIEコントローラーが内蔵されています。SnapdragonにPCIEコントローラーが載るのは(たぶん)初めて。これによって、PCIE接続が必要な機器を扱うことが可能となります

と言っても何でもかんでも使えるようにしようというわけではないようで、主にNVMe SSDに対応するためのコントローラーだと思われます。レーン数は不明ですが、PCIE世代としては第3世代となっています

というわけで

Snapdragon 8cxは、クロックアップによる基本的な性能向上はもちろんですが、キャッシュ増加やメモリ帯域の拡大、さらにPCIEへの対応など、本格的にPCを使うための用意を整えてきてくれているんだなと感じることができる仕上がりとなっているのではないかと思います。第1世代のスナドラ850にはそうした配慮が足りなかったんですよね……

Galaxy Book S(スナドラ8cx)の性能をベンチマークから予測

それでは、既に判明しているベンチマーク結果を基にしてSnapdragon 8cxを搭載するGalaxy Book Sの性能を探っていってみたいと思います。Intel製の第8世代4コアCPUを搭載するノートぐらいの性能は出るのか、それともCore m程度なのか……

まずCPUの性能から探ってみたいと思います

しかしクロスプラットフォームベンチとして有名なGeekbenchには、まだスナドラ8cxのスコアは上がってきていませんので、ひとまずベースになっているスナドラ855のスコアを参考にしてみると

Geekbench4 スコア シングルコア マルチコア
Snapdragon 855 約3,500 約11,200
Core m3-7Y30 2,762 5,338
Core i5-8250U 3,656 11,181

このような感じになっていました。スナドラ8cxが855と比較してどれだけの性能向上を果たしているのかは定かではありませんが、最低でも4コアのCore i5程度の性能は期待できると考えて良いのかなという気がします

また、PCの総合性能を測定するPCMark10においては、tom’s Hardware さんがベンチを実施してくれているのでそれを引用させていただきますと

PCMark10 Applications ベンチスコア Snapdragon 8cx Core i5-8250U
Word 3,499 – 3,609 2,943 – 3,089
Excel 3,925 – 4,141 4,334 – 4,627
Power Point 3,780 – 4,250 3,688 – 4,155
Edge 5,032 5,278 4,401 – 4,599
総合 4,039 – 4,139 3,894 – 3,970

というようなスコアとなったそうで、スナドラ855でCore i5と同等。スナドラ8cxではそれを少し上回るだろうという予測はほぼ合っていることになりそうです

この結果から、通常のオフィス用途であればSnapdragon 8cx搭載ノートはCore i5-8250U搭載ノートと同等以上の性能を持つため、消費電力の低さを考えるとかなり優秀で使いやすいWindowsノートPCであると考えることができると考えていいのではないでしょうか

Galaxy Book S

薄さも相まって使いやすそうです
画像引用:Samsung

続いてグラフィック性能を考えてみます

先ほどのtom’s Hardwareさんのベンチを参考に、8250U、そして内蔵GPUとして非常に期待されているRadeon Vega 8とも比較してみますと

3DMark Night Raid スコア
Snapdragon 8cx 5,051
Core i5-8250U(UHD Graphics620) 4,518
Ryzen Embbeded V1605B(Vega 8) 6,495

という感じとなっています。GPUという観点から見ても第8世代のU付きCore iシリーズと同等の性能となっているようです。しかしながらiOSが搭載するSoCほどの性能は無く、いわゆる普通の内蔵GPUであり、IrisやVegaには及ばないといった結果となっております

Windows on ARMの注意点

ここまで見てきた結果、Snapdragon 8cxを搭載するGalaxy Book Sは

  • Core i5-8250U搭載ノートと同等か少しだけ上回る性能を持つ

ということが予測できました。Galaxy Book Sは13.3インチなのであまり魅力を感じませんが、今後UMPCのような小型Windows端末にこのSoCが採用されるようになれば、ファンレスでスマホ並に小型ながら、現行の4コアUプロセッサと同等以上の性能を持ったWindows機が登場するかもしれません。これは胸アツです

さらにQualcomm製のSoCですので、モバイルで培ってきたモバイル通信との親和性の高さや省電力機能によるバッテリー管理の巧さといった点でもIntelに対してアドバンテージがありそうです

また、残念ながらGalaxy Book Sは5G通信には対応していませんが、SoCとしては5Gもサポートされています。Snapdragon 8cxを採用するWindows機は、5G通信への対応――それが無理でも、LTEに対応したSIMスロット搭載に期待が持てるのではないでしょうか

しかし気になる点もあります

まず今回引用させていただいたベンチなのですが、どれだけの電力で動かしたものなのかが不明です

QualcommはSnapdragon 8cx発表の際に、このSoCには基本的に7WというTDPが設定されていることを公開したうえで、7W同士の比較ではIntelプロセッサに対して2倍の性能差を持つことを言及していました

そして競合する15WCPUとの比較では同性能だということも語っていたのですが、これが7W動作時の性能が15WのIntelプロセッサと互角なのか、それとも15W動作時同士で比べて互角なのかはよく分からない感じになっています。ニュースサイトを見ても、サイトによってバラバラのことが書いてあります

Galaxy Book Sは筐体サイズが13.3インチですので、CPUをぶん回しても放熱に余裕があるためピークパフォーマンスは予想通りCore i5-8250Uと同程度の性能を発揮できると思います

Galaxy Book S

画像引用:Samsung

しかし、今後登場するであろう小型のSnapdragon 8cx搭載Windows機に関しては、もしかするとやや性能が抑えられてしまう可能性があるかもしれません。それでも現行のCore mと比較すると2倍の性能だということは明言していますので、十分といえば十分かもしれませんが……

それからもう一つ。こっちは重大です

Snapdragon 8cxはARMアーキテクチャですので、Windowsの全てのソフトが動作するわけではありません

動作可能なのはまず、X64 ARMにネイティブに対応しているアプリで、主にWindowsストアのアプリや主要ブラウザ等が対応の進んでいるアプリとなっています

そしてもう一つはX86ベースのWin32アプリで、いわゆる普通のデスクトップアプリです。が、こちらは元々X86-64ベースのCPUで動作するように設計されているため、これをリアルタイムでエンコードしながら動作するという仕様がとられています

現時点ではこれがモッサリとしているのが最大の問題となっています。どのぐらいかというと……常用は厳しいと言わざるを得ないほどのモッサリ感です。Atom並かそれ以下ぐらい

Windowsのデスクトップアプリが動くというのは、Windows on ARMの最大のセールスポイントであると同時に、最大のウィークポイントにもなっている部分なのです

ちなみにX64ベースのWin64アプリはエンコードができないため使用不可となっています。既存のX64アプリをエンコードするSDK(開発ツール)は公開されていますが、それはあくまでもソフト開発側の話であり、MicrosoftとしてはX64アプリのエンコード・エミュレーションには今後も対応予定は無いそうです。うーん……

まとめ

ということで、Snapdragon 8cxを搭載するWindows機を購入する人は

  • ブラウザやofficeソフト(アプリ版)など、メジャーなソフトしか使わない
  • X64アプリは使用しない
  • 限定的な用途に使えればよく、それよりもバッテリーもちが良い方がいい

など、デメリットを熟知したうえで、それでもメリットを感じられる人だけが選んだ方がいい機種であるということも覚えておく必要がありそうですね

私には……さっぱり魅力が分かりません(笑)

それではまた~

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