みなさんこんにちは
ドローンインストラクターのりんごロイドです
普段ドローンスクールで伝えているのですが、いまいち生徒の方に届いてない気がする……(泣)
そんな重要なポイントが、ドローンで注意するべき電波障害です
ドローンは電波によって操縦していますので、それが乱れるということは本当に大きなリスクになります。しかし、電波が目に見えないものであるがゆえ
なんか力説しててウケる~。大げさだなぁ
と思われてしまっている気がします。悲しい……
でも、実際に電波障害によってドローンの事故――しかも人身事故が起きてしまっているのも事実なんですよ!?
今回の解説では、ドローンによる事故を少しでも減らしていけるよう、ドローン使用時に注意しないといけない電波障害と、事故を防ぐための対策について解説したいと思います
ドローンで注意しないといけない電波障害の種類
電波障害の種類はたくさんありますが、ドローン使用時に注意すべき障害がこちらです
- 電波の混雑によるスループットの低下
- 電波の混信
- 伝送路障害
- マルチパス
- 感度抑圧
字面を見ただけで「めんどくさそう…」と思うかもしれませんが、きちんとこれらを押さえて安全飛行していただけたら嬉しいです
電波の混雑とスループットの低下
まずは電波の混雑が原因で起こるスループットの低下についてです
スループットって何?
処理能力のことだよ。ここでは「通信」の処理能力・品質のことだね
電波というのは無限に使い放題なものではありません。よく「限りある資産」なんて例えられたりもしますが、みんながみんな電波をドシドシ使ってしまうと限界を超えてしまい、スループットの低下を引き起こしてしまいます
身近な例では、市街地でスマホを使うと電波が溢れかえってしまっており、満足な通信が行えないといったケースがあります。実体験したことのある方も多いのではないでしょうか?
ドローンで電波通信のスループットが低下すると
- 通信可能距離が短くなる
- 映像がコマ落ちしたりフリーズする
- 通信エラーが多発し、ひどいと回線がブツ切れになる
- 完全に通信不能になる
といった事態を引き起こします。怖いですよね
実はドローンで使用されている電波というのは、混雑状況の中で使わなければいけない可能性が高く、スループットの低下を引き起こしやすい周波数が使われています
ドローンの通信で主に使われているのは2.4GHz帯という周波数の電波です。この周波数帯は、あまりの混雑っぷりから「電波のゴミ箱」と呼ばれることもある周波数帯になっています
この周波数帯は国際的に見てもISMバンドというメジャーな周波数帯であり、日本においても出力と用途、そして技術適合認証(技適)の取得という条件さえ満たせていれば、誰でも自由に免許も届け出も不要で使える周波数と定められています
そのためあらゆるものに2.4GHz通信が使われるようになってしまっています。その最たる例が2.4GHz無線LAN。通称、Wi-Fiです
最近ではコンビニもレストランもカフェも、あらゆる場所でフリーWi-Fiが飛び交うようになり、町中に2.4GHz帯の電波が溢れかえってしまっているというのが現状です
そして、ドローンで使われている電波も、皆さんが当たり前に使っているWi-Fiも、基本的には全く変わりのない電波となっています。つまり
ということをきちんと知ってドローンを飛ばす必要があるのです
実際、例えばDJIドローンを飛ばす際に使用するDJI GO 4アプリでは、2.4GHz帯の通信状況を監視できる機能が備わっています。それだけ、電波の混雑というものがドローンの通信に影響を及ぼすという証拠ですね
ごく限られた範囲内で同時に多数のドローンを飛ばさないようにするというのは基本ですが、それだけではなく、Wi-Fiをはじめとする電波の混雑状況もきちんと確認してから飛ばす必要があることを覚えておいて下さい
そして電波が混みあっているようであれば、『スループットの低下が起きるかもしれない』ということを予測し、いつも以上にドローンの挙動に注意しながら慎重に飛行させることが重要となります
電波の混信
私と同世代の方であればラジオに違う無線が割り込んできてしまったり、テレビが二重に映ったりする経験をされたことのある方も多いのではないでしょうか?
これが電波の混信です
ペアリングされている送信機が発する以外の電波も受けてしまう状態ですね
ドローンの電波は、こうした昔の電波とは違ってデジタル通信という方式になっています。そのため、『他の人が発した操縦電波を間違って受信し、他人の命令で動いてしまう』みたいな混信の仕方はしません
その代わりに起きる可能性があるのが、スループットの低下です
先ほど、電波が込み合っているせいでスループットが低下するという話がありましたが、同様のことが混信によっても起きる可能性があるということを知っておく必要があります
いちおう、2.4GHzの電波もチャンネル分けが施されいて混信を起こさないよう配慮されてはいるのですが、このチャンネルが完璧に独立しているわけではないため、混信を起こす可能性が残ってしまっているのです
ということが言えます
何か対策はないの?
技術の進歩によってだいぶ対策もとられているよ
こうした混信を避けるため最近のドローンではFH-SS(フリクエンシーホッピングシステム)という通信方式がとられるケースが増えてきています
2.4GHz内に分けられたチャンネルの1つをずっと使い続けるわけではなく、ごくわずかな時間であちこちのチャンネルを飛び回りながら通信を行うという方式です
この方法であれば、ごくわずかな時間は周波数がかぶってしまっていたとして、すぐに別々のチャンネルへ飛んでいくため、非常に混信に強く障害を起こしにくくなっています
ですので心配しすぎる必要はないと思いますが、こうした障害もあるのだということを知っておくことは安全運用のために重要なことであると言えます
圧倒的シェアを誇るDJIの機種を例に挙げると、OcuSync(最新の3+まで含む)でもLight Bridgeでも、操縦の電波はFHSSです。が、画像伝送はOFDMという方式になってますのでちょっと注意かも。こちらも品質が低下すると別チャンネルに移るようにはなってますが常に飛び回っているわけではありません
伝送路障害
名前で何となく分かるかもしれませんが、電波の通り道が障害物等で塞がれてしまい、通信品質が下がってしまう電波障害が伝送路障害です。伝搬路障害という言い方をすることもあります
電波というのは、周波数が高くなればなるほど直進性が増し、物体を回り込む力が弱くなるという特性があります。逆に低い周波数は、遠くまで届くうえに障害物を回り込む力(回折)も強くなります
プラチナバンドだ! ソ〇トバンク
昔こんなこと騒いでいた会社がありましたが、これは周波数の低い電波をゲットできたことで電波がつながりやすくなったってことでした
んで。
ドローンで使われている2.4GHzという周波数は、どちらかというと周波数が高めの電波です。そのためドローンとパイロットとの間に障害物があるようなケースでは、伝送路障害が起きる可能性があります
近距離を飛ばしている場合はそれほど心配する必要は無いのですが、遠距離まで飛ばしていたり、電波の混雑によってスループットが低下している状態で、さらに障害物の背後にドローンを回り込ませてしまうようなケースなど、注意が必要となります
伝送路障害が起きるとエラーの多発や速度低下によって通信の品質が下がりますので、電波の混雑時と同様に、通信距離が短くなってしまったり通信が途切れてしまうことがあります
さらに言うならば、伝送路障害というのは、パイロットとドローンとの間が直接的に塞がれていなくても起きてしまう可能性があります
電波が本来の電力で正しく受信機に届くためには、送信機と受信機との間に一定の空間が確保されている必要があります。この空間は計算によって求めることができ、フレネルゾーンと呼ばれます
このフレネルゾーンのクリアランスが確保されていないと、たとえ直接的には電波の通り道が塞がれていなかったとしても、通信品質の低下を引き起こしてしまうというわけなんですね
イメージしてほしいのですが、自分がコンクリで囲まれた建物の中にいて、そこに穴が空いておりドローンが直視できている――この状態で正常な通信が行えると思いますか?
もちろんこれは極端な例ですが、例えばビル群や森の中などからドローンを飛行させる場合には、周囲に障害物が多数存在していることになりますので、こうした際には注意が必要です
木立は電波を通しやすい方なのでまだマシなのですが、ビルや金属製の資材といった電波を反射しやすい障害物には特に注意です。建物の屋根越しに操縦するとか、実際は結構リスクです
具体的には、パイロット視界の60%以上を障害物が占めているようなケースでは伝送路障害の可能性を考慮し、慎重にフライトさせる必要が出てきます
マルチパス
マルチパスとは、同一の送信機から発信された電波が受信機側に複数届いてしまうことによって起きる電波障害です
電波とはひとつの方向にだけ飛んでいくわけではありません。360°あらゆる方向に向けて飛んでいくわけですが、建物や地形の状態によって電波が跳ね返され、何度も何度も時間差で受信機に届いてしまうというケースがあります。これがマルチパスです
電波とはその名が示すとおり『波』です
波と波がぶつかると、お互いが干渉しあってその大きさ=強さが大きくなったり小さくなったりすることがあります。これが波の『干渉』という性質です。海の波や波紋を思い浮かべてもらうと多少イメージできるでしょうか
目に見えない電波でもこれと全く同じことが起き、電波がきちんと届いているにも関わらず電波強度が下がったような挙動を示すことがあるのが怖いところです
- 通信品質の低下
- GPSの場合、測位精度が著しく低下
- 位相の変化が起き、通信不能となる場合がある
通信品質の低下が引き起こす症状は、先ほどまでのスループットの低下で紹介したものと同じです。また、GPSというのが初めて出てきましたが、GPSも電波を利用していることには変わりありませんので、マルチパスには注意が必要になります
そして滅多にないケースですが、位相の変化具合によっては電波同士が打ち消し合い、完全に通信ゼロの状態となってしまうことも理論上あり得るのが怖いところです
全く同じ形の波と波をぶつけると波が消えてしまうというのは、ノイズキャンセリングヘッドフォンなどでもお馴染みの技術ですので知っている方もいるのではないでしょうか? 音も音波という波ですので、この原理が使われているのですね
という注意点を覚えておいて下さい
スポンサーリンク感度抑圧
実はこれこそが、ドローンを使用するうえで最も注意しなければいけない電波障害です。今までの障害達を四天王とするなら、感度抑圧こそがラスボス・大魔王だと言えます
位置関係としてはこんな感じ
感度抑圧の怖いところは、正しい受信帯域(ドローンの場合だと2.4GHz)以外の周波数の電波であっても現象が起きてしまうという点にあります
ケースによっても変わりますが、感度抑圧を起こすのは『オクターブバンド』と呼ばれる正しい帯域の1/2倍~2倍程度までの周波数帯であり、今回解説している2.4GHzの場合ですとおおよそ1.5GHz前後から3GHzちょいまでが要注意となります
ですので1.5GHz~3GHzという周波数帯に強力な電波の発信源がいるのかどうかが問題になるわけなんですが、これが……いるんです!
理論上の話ではなく実際に存在しているからこそ、非常に注意しなければいけないポイントとなっています
問題の1.5GHz~3GHzの間で飛び交う強力な電波の発信源を見ていくと、2.4GHzのすぐお隣である2.5GHz帯をWiMAXで有名なUQモバイルが利用しています(BAND41)
こうした携帯電話回線の電波というのは非常に出力が強いものが多いため、アンテナや基地局といった電波の発信源付近を飛行させてしまうと、ドローンの微弱な電波など簡単に抑圧されてしまいます。そんな強力な電波が、すぐ真横の2.5GHz帯に存在しているのが本当に怖いポイントなんです
他の帯域も見てみると、2.1GHz帯にも携帯電波のLTE回線で使われている帯域があります。それも、docomo、au、ソフトバンクの全てが使用しています。ガジェット好きな方ならBAND1という言い方をすると分かるでしょうか
こちらの方はUQと比べると周波数的に多少離れているためリスクも下がるとは言えますが、感度抑圧を引き起こす条件を満たしてることには変わりありませんので注意が必要になります
感度抑圧は条件を満たせば必ず発生するというものではありません。普通に飛べてしまうこともあります。でも、突然起きてしまうこともあります。ですので、アンテナや電波塔などに気づかずフライトしていると
前にこの場所飛ばした時は何も問題なかったのに、今日はドローンが暴走した!
ということもあり得るわけなんですね
いちばんはじめに人身事故の話題を挙げたのを覚えているでしょうか?
ドローンの人身事故はしっかりと原因の調査が行われますが、調べてみると「原因はWiMAX電波(BAND41)による感度抑圧だった」というものが複数報告されています。異常運航やヒヤリハットの報告まで含めるとその数はさらに増えます
とは言っても携帯電話の電波はどこでも飛んでいますので、それらすべてに気をつけて下さいという意味ではありません。注意点をまとめると
- 飛行前に必ず周囲の状況を目視確認し、飛行ルートに電波の発信源(アンテナ・基地局・電波塔など)が無いかを調べる
- 電波の発信源の100m以内は飛行させないようにする
- 業務等でどうしても飛行させる必要がある場合は、スペクトラムアナライザー等を用いて電波の状態を確認してから飛行させるようにする
このようになります
注意すべき点は電波の発信源の有無です。そして発信源があった場合にはその付近にドローンを飛ばしてはいけません。WiMAXが使用するBAND41の電波であれば100m以内は飛行しない。docomo等のBAND1の電波であれば50m以内は飛行しない、というのが目安だと言えます
しかし電波の専門家でもない限り、アンテナ形状から周波数帯や出力を判別するのは無理だと思いますので、一律100m以内は避けるという判断にしておくべきです。ちなみに高圧線や変電所等、電磁波の乱れがある場所も、30m以内は飛行させないようにするべきです
感度抑圧を起こしたドローンは通常、電波ロストとなりRTHがかかります。しかし電波ロストではなく暴走したという報告も複数上がってきていますので、自分自身が注意しないと本当に最悪の事故につながる可能性を孕んでいます
ただ、お仕事でドローンを飛ばす方なんかですと、どうしてもそういったエリアを飛ばさないといけないケースもありうると思います。そんな時には、飛び交う電波の周波数や出力を調べることのできるスペクトラムアナライザーという機械を使って、事前調査をしてからフライトさせるようにする必用があります
こんなやつですね。安いのでもいいですが、最低限2.4GHz周辺の周波数を分析できないと意味がないですので注意して下さい
繰り返しになりますが、電波は目に見えないがゆえにどうしても甘く見られがちです。私がいくら話しても
大げさだなぁ。そんな事故起きてないじゃん。大丈夫でしょ
って思ってしまう人が多いのも分からなくないんですが、注意しないとマジで取り返しのつかないことになる可能性もありますので、本当に気を付けていただきたい部分なんですよ~
硬く、面白くも無いこの記事をここまで読んで下さったあなたはきっと安全意識の高い方なのだと思いますので、しっかりと注意してフライトさせていただけることと信じています
ご安全に!
その他の注意事項
電波はアンテナのどこから出ているかご存知ですか?
意外と多くの方が先端から出ているイメージを持っているようなのです。鉄〇28号のせいかな…?
しかし実際のところ、シェアNo.1のDJI製ドローンの多くの機種では、電波が最も効率よく出ているのはアンテナの側面になります。逆に、最も電波が弱い部分がアンテナの先端と根本です
こういった特定の方向にだけ電波が届く・あるいは特定の方向からの電波をよく受信するように設定されているアンテナを「指向性アンテナ」といいます
指向性についてはマニュアルにもきちんと記載がありますので、そちらをしっかりと確認してから飛ばすようにしましょう。機種によっても違うと思いますので気を付けて下さい
それから、これも全てのドローンが該当するわけではありませんが、機種によってはプロポにアンテナが2本ついているものがあると思います
これは通信を安定させるための仕組み(MIMO)となっていますので、2本とも同じように立てる必要があります。片方を立て、片方を寝かせるといったようなアンバランスなアンテナ配置は逆効果ですので避けるようにしましょう
まとめ
以上がドローンで特に注意すべき電波障害です
目に見えない電波ですが、電波が乱れコントロールを失ってしまうということはドローンにとって最も大きなリスク要因のひとつとなります
この記事でどこまでお伝えできたか分からないのですが、スペクトラムアナライザーを買うのはハードルが高くても、飛行前に目視で周囲を確認したりアプリで電波状況を確認することは少し意識すれば出来ることだと思います
めんどくさいなぁ…という気持ちは分からなくはないのですが、重量物を空に浮かせているという意識を持って、少しでも安全にドローンを使っていけるよう、この記事がお役に立ったのなら幸いです
面白くもない話を最後まで読んでいただいてありがとうございました
それではまた~
コメント
業務でドローンを飛行させている者です。テレワーク中にこの記事を読みましたが、大変参考になりました。私なりに注意してフライトしているつもりでしたが、まだまだ不十分だなと勉強させて頂きました。
大澤さん
コメントありがとうございます。そう言っていただけると公開して良かったと嬉しくなります
伝送技術の工夫や進歩によって安全に使えるようになってきてはいますが、それでも意識をしっかりと持っておくに越したことはないですからね
参考になったのなら幸いです