巷ではIntelの第14世代プロセッサは失敗・買う価値無しなど散々な言われようで、特にCore i7やi9では電力は馬鹿食いするし発熱もすごいことから360mm級のラジェーターを備えた水冷じゃないと厳しいという意見が散見されます
これはそれなりに的を射ていると思いますが、ではどこまで厳しいのでしょうか? 私のように「Mini-ITXフォームファクタで小さくても性能の良いPCが欲しい!」というのは無理な願いなのでしょうか?
今回はそれを確かめるべく、実際に第14世代Core i9をMini-ITXケース&マザーにて240mm簡易水冷で組んで試してみましたのでまとめていきたいと思います
有利な条件ではある
最初にハッキリさせておかなければいけないことがあります。諸条件についてですね
まずケースですが、Mini-ITXとは言っても今回使用したケースはRazerのTomahawk Mini-ITXです。なぜこれを選んだのかというと、単純に使わずに余ってたものが家にあったからです(笑)
このケースは321.5 × 206.2 × 367.2 mmというサイズですので、コンパクトではあるものの、ちょっと前に流行ったような超小型ケースというわけではありません
Dan Case等のような超小型Mini-ITXケースと比べると余裕があり、エアフロ―など有利ですしAIO(簡易水冷)も取り付けることができますのでそれらの超小型ケースでの使用を想像していた方はごめんなさい、そうではありません
とはいえATXマザーが載るようなタワー型と比べたらコンパクトですし、簡易水冷も240mmサイズが限界。配線もかなり考える必要があるという点ではMini-ITXらしいケースではあります
続いて季節なのですが、この記事の公開日は真冬です。つまりこのテストを行ったのも冬ということ
私は貧乏なのでエアコンをつけることができません。さらにボロアパートでもありますので、室内温度は12℃前後となっており冷却面では有利な環境と言えると思います
次にハードウェアについて
今回バラック状態ではなくきちんとケースに組み込んでテストをしています。その点はフェアだと思うのですが、リザルトのスクショを見てもらうと分かるようにGPUを組み込んでいません
間もなく発売されるRTX4000 Superシリーズのどれかを新しく買おうと思っているため、まだGPUが無いのです。メイン機からGPUを付け替えてテストすることも考えたのですが、ちゃんとGPUを買ってからそれに合わせたケーブルマネジメントをしたかったので結局装着しませんでした
RTX4000 Superシリーズは案の定、ご祝儀&おま国価格になったので当面買わないかもしれませんが(泣)
GPUという大きな熱源がケース内に無いため、バラック状態ほどではないにしても通常よりかなり有利な環境となっていると思います
その代わりと言ってはなんですが、少しでも内部に熱をこもらせるよう、わざとケースファンを装着せずにテストを行いました。つまりエアフロ―は水冷クーラーのファンによる排気だけです。GPU無しというイカサマをこれで少しでも相殺できていればいいのですが……
このような環境下であることを念頭に置いて結果を確認していってみたいと思います
検証環境
繰り返しになる部分もありますが、改めて検証環境を表でまとめておきます
室内環境温度:12℃前後
項目 | 使用パーツ |
CPU | Core i9-14900K |
GPU | 無し(iGPU) |
ケース | Razer Tomahawk Mini-ITX |
マザーボード | ROG Strix Z690-I Gaming WiFi |
CPUクーラー | Razer Hanbo Chroma RGB AIO Liquid Cooler 240MM(簡易水冷) |
メモリ | Corsair CMK96GX5M2B5600C40 2枚合計 DDR5 96GB |
ストレージ | Hanye HE70 4TB(NVMe PCIe Gen4×4) Hanye HE80 4TB(NVMe PCIe Gen4×4) |
ケースファン | 無し |
電源 | ASUS ROG Loki SFX-L 1000W Platinum |
今回のキモになりそうな水冷クーラーですが、こちらはRazerのHanbo 240mmサイズを使用しました。Asetek製ポンプとはいえちょっと古いですよね
本当は最新世代のポンプを搭載した製品だったり、Lian LiのGalahad IIのような240mmサイズでありながら360mm製品を超える性能が発揮できるものを使うのがより相応しいのでしょうが、これも使わずに余っていたものがあったので……
ファンとポンプの回転数はアドバンスト(セミ手動)モードで最大限静音寄りになるようカーブを設定して実行しています
Razer純正のアプリ(Synapse)を使う限り、これ以上静音側に振れないところが結構不満だったりするのですが……閉じた状態のケースではこれで50℃以下でほぼ無音でした
ということで上記の構成で簡単にではありますがCPUを回してみたいと思います
なお今回の検証はひとまず
- 電力無制限(PBP(PL1)/MTP(PL2) 4095W) TjMAX 100℃
- 14900K定格(PBP(PL1) 125W/MTP(PL2) 253W Tau 56秒) TjMAX 100℃
で行っています。定格の方は完全に「Intel様のおっしゃる通り~」の設定です。今後時間を見つけては設定をいじってその結果も追記していけたらと思っています
せっかくの14900Kなので、第14世代にしか備わっていないXTUでのAI ASSISTなんかも使ってみないと勿体ないですしね
発熱・消費電力・動作クロックを確認
電力制限同様こちらも現時点ではまだCINEBENCHだけしか試せていませんが、追って追試を行ったらその結果を追記していきたいと思っています
CINEBENCH 2024
無制限(PBP 4095W/MTP 4095W) |
定格(PBP 125W/MTP 253W) | |
CPU Multi Core | 2194 | 1798 |
CPU Single Core | 134 | 131 |
GPU無しというチート状態ではありますが、240mm水冷+Mini-ITXケースでも十二分なスコアが出ています。240mmラジェでも大丈夫じゃん♪ 冷やすのに360mm超のラジェーターじゃないと無理というのは、正しいながらもちょっと脅かし過ぎかもしれませんね
※ただし夏はダメかもしれませんけど
定格状態では無制限と比較して20%程リザルトが低下していて結構スコア差が出ちゃいますね。しかしそれでもRyzen9 7900Xあたりより良いスコアとなっているのは嬉しいところです
同じ上限ありでも、PBP=MTPとして253Wリミットにしておけばもっとスコアは上がって無制限との差も小さくなるでしょうが、今回の主旨はスコア競争ではないのでそうはしません。Mini-ITX+240mm AIOで無理させなくても満足できる性能が出るのかが焦点になります
そういう意味では温度や消費電力次第ではこのスコアは決して悪いものではない可能性があります。ということでマルチコアベンチ時における各比較がこちら
まず消費電力です
今回の構成だと無制限の方は300W前後の消費電力を常時維持しています(下がってるところはベンチのインターバルです)。定格の方はTauで設定した56秒間はちゃんと253Wを維持し、その後125Wで動き続けるという当たり前の動き方をしていますね
ではこの時の温度はどうなっているのでしょうか
まず、無制限でも定格でもどちらもすぐに100℃前後に到達します。これはIntel CPUの基本動作でその後落ち着いていくのですが、無制限状態では90℃手前の80℃台後半で推移しています(下がって上がるところはベンチのインターバル)。意外と冷えてる!
繰り返しになりますがこれはGPUが無い状態です。そのため大きなウェイトを占める熱源が無く、かつケース内には余裕があり冷えやすい環境ではありますが、それにしても『爆熱』とかいうからにはもっと熱いのかと思ってましたがこんなものなんですね
一方で定格の方では、MTP(PL2)で動作する56秒間は70℃前後で、その後125Wに移行してからは50℃弱で動作しています。これは冷えてると言えるでしょう!
今回簡易水冷Razer Hnaboのファンとポンプの回転数カーブを、50℃以下でだいぶ下がるように設定しています
そのため定格動作時ではベンチ中もほぼ無音でしたので、これなら静粛性という点でも満足度が高いです
前述の通り、GPUが無い分ケース内をわざと熱くできるようケースファンをつけていません。ケースファンを装着すれば少しは音がすると思います
さて
もしかしたら100℃に到達していないこのグラフを見て
サーマルスロットリングが発生してるんじゃねーの?
と思われる方もいるかもしれません。そこで動作クロックの変化を見ていきます
ご覧の通り、最初から最後まで全くと言っていいほどクロックの低下はありません。Pコアは上限の5.7GHzに、Eコアも上限の4.4GHzに張り付きっぱなしで、ロード直後を除いてサーマルスロットリングは起きていないことが分かるかと思います
14900K/KFは最大6GHzじゃないの?
と思う方もいるかもしれませんがこれはTBM3+TVB(Thermal Velocity Boost)時のクロックであり、TBM3.0は2コアまでにしか作用しません。今回のCINEBENCHのように全コアフルロードさせるような用途の場合にはPコアは全コア5.6GHz+TVB100MHzでの5.7GHzが最大となります。Eコアは4.4GHzが最大です
詳しくはIntelのスペックシートや下記サイトなど参考で。ちなみにK付きの倍率アンロックモデルなのでOCした場合にはこの限りではありません
ということで、サーマルスロットリングが起きないまま(ロード直後の100℃到達時は除く)ベンチを完走できたことが示せたのではないかと思います
Mini-ITX小型ケースに240mm水冷でもi9無制限運用いけそうじゃないですか♪
でも、くどいようですがGPU無し+真冬という環境ではあるという点には注意して下さいね。あくまでもひとつの参考情報ということで。あと今回は時間の関係で10分間のベンチしか回せていないので、30分テスト、1時間テストなど行ったらまた結果も違うかもしれませんのでその時は追記したいと思います
一方で定格設定ではどうかというと、Tauで設定した56秒間は5.5GHz前後をキープし、56秒経過後にPL1に移行してからはPコアは4.4GHz前後でEコアは3.6GHzまで低下しています。これがスコアの差に大きく影響したのでしょうね
その分CPU温度には全く不安は無いですし消費電力も半分以下です。温度が低いからファン&ポンプの音も気にならず非常に快適で、それでいて性能低下が20%程度であるならば個人的には全然アリです
よく
電力制限するならi9買う必要無いじゃん(笑) ロマン乙w
という方もいてその意見も分からなくはないのですが、この自由さのために高いお金を出してi9を選んでいるというのが正しいのかなって気がします
省エネや静音に振りたい時には今回のように定格もしくは使用内容に見合った電力設定を施してやり、とにかくパワーが欲しい時には無制限でぶん回す――
240mm水冷や小型ケースでも無制限で回せることが今回分かったわけですので、こういったバリアブルな電力設定による自由なユーザビリティこそが最上位であるi9を選ぶメリットなのかなと思います
ポン付けで使いたい人、BTOマシンなどそのまま使いたい人、マザーボードやBIOS(UEFI)の設定をいじりたくない人が魅力を感じられないというのはよく分かります。私のようなオタク向けCPUなのかなぁという感じですね(笑)
CINEBENCH R23
こちらもほぼ同様の結果になるであろうことは予想がつきますが、せっかく実施しましたので一応記載しておきます
無制限(PBP 4095W/MTP 4095W) |
定格(PBP 125W/MTP 253W) | |
CPU Multi Core | 39521 | 31799 |
CPU Single Core | 2271 | 2266 |
2024バージョンとほぼ同様の結果ですね。定格で使うと20%程スコアが下がります
続いて先ほど同様細かく見ていきますが、こちらはCINEBENCH 2024とはちょっと違った動作を見せていました
まず消費電力なのですが、定格の場合には先ほどと同様の挙動で何も気になる点は無いのですが、電力無制限の場合だと先ほどよりも大きな330Wという電力を消費しています
これは何でなのだろうと思ったのですが、14900Kは論理32コアですのでベンチマークの1ループがあっという間に終わってインターバルを挟み次のループに入ります。処理も速いので平均温度が下がったように見え、余裕があると判断して電力を高めているのかなと感じました
そこで熱を見てみますと
やはり先ほどより熱が高く大体95℃前後で推移しており所々100℃に達してサーマルスロットリングが(一瞬だけ)発生していることが見て取れます。これもやはりロード→終了→インターバルの間隔が短くすぐに温度が下がるためこのような挙動になっているのかなと予想します
より重いベンチの2024ではサーマルスロットリングが発生せず、それより軽いR23の方で高発熱、高電力消費量、サーマルスロットリング発生となっているのはなんだか面白いですね
ちなみに次のグラフを見ていただくと分かりますが、サーマルスロットリング発生と言ってもクロックがガクッと下がるわけではなく本当に一瞬のことですぐに復活します。ベンチ結果のリザルトからも、このCPUとしては十二分のスコアが出ていることが分かりますのでちゃんと性能は引き出せていますので一安心です
こちらが動作クロックの推移です
先ほど同様Pコアは上限の5.7GHzに、Eコアも上限の4.4GHzに張り付きっぱなしで動作できていることが分かりますし、100℃に達してサーマルスロットリングが発生した際にもクロック低下は記録されないぐらいの一瞬だということが分かります
定格の方については2024の時と同じで特筆すべきことはないですね。消費電力は1/3で温度も半分の50℃前後のためラジェーターの音も静か。クロックは下がってますがTau56秒でのPL2動作があるため、ベンチのスコアで見ると2割ダウン程度で済んでいる――個人的には満足です
まとめ
ということで今回はやたらと酷評されている第14世代CPU(Raptor Lake Refresh)の中からCore i9-14900Kを、360mm水冷が付けられないような小型ケースでも満足に使っていけるのかを試してみました
季節や使用している構成にもよるでしょうが個人的には全然満足できる結果になって嬉しかったですね
元々この実験をしてみようと思ったきっかけはMINISFORUMから発売されているAR900iでして、こちらのマザーボードはモバイル版(だけどデスクトップ仕様)のi9-13900HXが搭載されている上に独自ヒートシンクで安定して100W駆動できるという代物でした
これを使って小型のサブ機を組もうかなぁとか思っていたのですが、海外のレビューなど見ていると本当に100W駆動が上限のようでせっかくのi9なのに何だか物足りないなぁ、と思ってしまいました。これならデスクトップじゃなくてAlienwareラップトップとかでいいじゃん、と
そこでMini-ITXマザーボード+14900Kを自分で購入して小型マシンを組めば、静音省力設定でAR900iのようにも使いつつ、必要になったら253W駆動するマシンとしても使えるようになるぞと思い立ったのが出発点です
AR900iは割引価格で89590円。それに対して14900Kは90000円なので、マザーボード代を除けば同価格です。マザーは安いのを選べば17000円ぐらいからありますので、そのぐらいの差なら性能差を考えると全然お得かと感じます
唯一の心配が冷却面だったわけですが、結果として253Wはおろか無制限設定でそれ以上となる300W級パワーまで発揮できることが分かったのでこれは大成功だったと言えると思います
ただ最後に改めての補足になりますが、これは現時点においてはMini-ITXケースの中では余裕のあるケースで、真冬で、GPUを装着していない状態での話――という点は忘れないで下さいね
しかしGPUが無ければ冷やせるということは、実際に試したので間違いないわけです
Mini-ITXケースではFounders Edistionを除いてRTX4080や4090といった大型のグラボは入らないことが弱点だったわけですけど、いっそのことeGPUにしてグラボ外付けにしてやればCPUは冷えるし高性能なグラボ使えるし結構ありかなとか考え始めています
4080 Superは4080よりも薄く短くなっており、且つ性能はわずかに向上しているので小型ケースにもピッタリ♪ と、買う気満々だったのですがおま国&ご祝儀価格が憎いです。分かっていてもア〇ク税許せん……っ!
ご祝儀はずむぐらいならRTX4090買っちゃってもいいのかもしれません
GPDやOne-Netbookが採用するPCIe4x4のOcuLinkでは帯域的にこれらのグラボは勿体ないですが、それらを超える4×8のOcuLink接続ボードも出てきてるみたいですので試してみたい気持ちがギュンギュン高まっています(笑)
それではまた~
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